最高裁判所第二小法廷 昭和28年(あ)5435号 判決 1954年10月22日
主文
本件各上告を棄却する。
理由
被告人四名の弁護人森安敏暢の上告趣意について。
量刑不当の控訴理由として、訴訟記録にも、第一審裁判所において取り調べた証拠にも現われていない同種事案に関する従来の裁判例を援用することが許されるかどうかという点については、原判決は何ら判断を示していないばかりでなく、論旨引用の大阪高等裁判所の判決は第一審で主張しなかった緊急避難であるとの事実上の主張を控訴審で新たに主張することができるかという点に関するものであり、その余の判例は、論旨も自認するように、第一審判決後に生じた事由または作成された書類を量刑不当の控訴理由として援用することができるかという点に関するものであって、いずれも本件には適切でない。従って、所論判例違反の主張は採用することを得ない。また、記録を調べても、刑訴四一一条を適用すべきものとは認められない。(同種事案に関する従来の裁判例の如きは、当該犯罪および犯人に関する個別的、具体的な量刑事情(改正刑法仮案五七条五九条参照)とは異なり、証拠によってその有無を判断すべき性質のものではなく、裁判所が刑を量定し、または量刑の当否を判断するにあたり、規範的要素として当然考慮し得べきものである。従って、控訴審が第一審の量刑の当否を判断するにあたって、訴訟記録等に現われていない同種事案に関する裁判例を考慮したからといって、控訴審の事後審たる性格に反するものということはできない。されば、裁判例については刑訴三八一条、三八二条の二、三九三条の諸規定はその適用がないと解するのが相当であり、本件における検察官の控訴趣意書における如く、訴訟記録等に現われていない同種事案に関する裁判例を量刑不当の一事由として記述しても、これを不適法とすべき理由はない。)
よって同四〇八条により裁判官全員一致の意見で主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 霜山精一 裁判官 栗山 茂 裁判官 小谷勝重 裁判官 藤田八郎 裁判官 谷村唯一郎)